
writer 齋藤萌
「心地いいおしゃれの見つけ方」をテーマに、自分らしい着こなしやおしゃれのルールを持っている人たちをご紹介しています。
第11回目は、ファッション誌『装苑』の元編集長で、現在はフリーのファッションコーディネーターとして活動している德田民子さんです。
長野での暮らしがきっかけで変わった “いま着たい服”

現在德田さんは定年を機に長野に家を建て、自然に囲まれた暮らしを楽しんでいます。
ファッション誌の編集長として東京で働いていたときとはまったく違う暮らしにシフトした德田さん。環境の変化とともに、自然と着たい服も変わっていったそうです。
「夫も私も長野には縁もゆかりもなかったのですが、一緒にドライブをしている時に見た北アルプスの峰々が本当にきれいで、二人ともすっかり長野が気に入ってしまったんです。
なので引っ越しを決める時もお互いに『ここいいね』『うん、いいね』といった具合に、とても自然な流れでしたね」
退職や長野への引っ越しを機に、着物などの持ち物も実家やさまざまな人にあげたそうで、着いた時はとても身軽だったといいます。ゼロからの出発ではないけれど、何か新しいものを取り入れるのにはぴったりのタイミングだったのではないでしょうか。
「ファッション誌の編集の仕事をしていた時は、若いデザイナーなどファッションの世界でがんばっている人たちを応援したかったので、素材もデザインもいろいろなものを買って身につけました。
中には着づらいけれどデザイン性が素晴らしいものや、素材がとても面白いものもありましたね。
けれど仕事を離れたので、自分なりの着こなしについて改めて考えてみようと思ったんです」
シンプルだからこそ奥深い、ベーシック
▲『アニエスベー』のボーダーカットソーとシャツ
「自然の中での暮らしなので、動きやすさも東京にいた時より重要になりましたし、この環境だからこそ似合うおしゃれもあると思うんです。
そしてたどり着いたのが『ベーシックなアイテム』を使った着こなしでした。けれどただボーダーやシャツなど定番のものを選ぶだけではなく、ベーシックな物を自分らしく着こなすにはどうしたらよいのかを、楽しむようになったんです。
ですがこれが本当に難しい(笑)
例えば襟ひとつとっても、形の他にも幅がありますよね。その微妙な差で印象が変わってしまいます。
私のお気に入りはアニエスベーのシャツ。アニエスベーが定番で作っているもので、何十年と着ているシャツです。インナーとして使う際も襟幅が私にしっくりきます」

襟幅の他にも首のあき具合や素材など、シンプルだからこそちょっとした匙加減でおしゃれになるかが決まるベーシック。その違いを楽しむために、例えば定番のボーダーのTシャツも数枚は揃えるようにしているそうです。
「ボーダーも、このところアニエスベーがお気に入りです。細めのピッチのものは、重ね着したときに下から出しても柄が見えやすいので、インナーとしても活躍するんですよ。色も赤と黒を持っています。
太めのボーダーも持っていますが、こちらはインナーにしてしまうと例えば袖から少し覗かせたい時に柄が見えてこないので、1枚で着る用です」
さっと被って決まる、大好きなキャップ

キャップもまた、德田さんがいくつも持っているアイテムです。その数なんと20種類以上に及ぶのだそう。
「帽子があるだけでおしゃれが決まると思っているくらい、帽子が大好きです。
けれど着こなしが難しいアイテムでもあるんです。例えばベレー帽はちょっとした傾き具合や凹ませ方でおしゃれが決まるのですが、動いてしまうとそれが崩れてしまう。でもモデルさんではないので、動かないわけにいかないですよね。
でもキャップはどう被っても決まります。そこが気に入っているポイント。なるべくロゴがないほうがよいので、ロゴが小さいものや無地のものを、見つけたら買うようにしています」
足元は、歩きやすさにこだわって

「昔からエレガントな装いよりもボーイッシュな方が好きでした。その上外反母趾のため歩きやすいことも考慮して、足元はスニーカーばかりです。
メーカーはNIKEやVANS、New Balanceなど、定番のものが多いですね」
70歳ではじめて開けたピアス

「長野に来てから楽しむようになったおしゃれに、ピアスもあります。70歳ではじめて開けたんです。ピアスホールを開けてくれたお医者さんには『この年齢で開ける人、あなたがはじめてよ』と言われましたね。
開けてみたら、耳元に揺れるものがあるのが楽しくて。貝など天然の素材のものが好きなので、気に入ったものがあったら購入しています」

色や柄からは元気をもらえる。これからしたいおしゃれ

年齢や環境の変化とともに、自分らしいおしゃれを存分に楽しんでいる德田さん。最後にこれからしたいおしゃれについて伺いました。
「ベーシックなおしゃれと言いつつ、実は今、大胆で可愛いプリントの洋服があれば着てみたいなという気持ちが膨らんでいます。
ようやくコロナも落ち着いたから、海外や島で大胆な格好を楽しみたいという気持ちが湧いているんです。そんなシーンに似合う一着があれば、きっと気持ちが晴れやかになると思います。
私にとって洋服は、その日の気分を変えてしまうほど大切なもの。色や柄から元気をもらって、気分が明るくなる装いを楽しみたいですね」
撮影・取材・文/齋藤萌
- あわせて読みたい
- 【おしゃれの見つけ方】第10回 引田かおりさん/50歳から「自分の好きなものを着よう」と決めた。洋服は自分応援ツール
- プロフィール
德田民子(とくだたみこ)
ファッションコーディネーター
1945年生まれ。『装苑』(文化出版局)の元編集長で、現在はフリーのファッションコーディネーター。2009年より長野県安曇野市に住まいを移す。著書は、『大人のおしゃれ手帖特別編集 德田民子さんのファッションルール』(宝島社)、『別冊天然生活 德田民子さんのおしゃれと暮らし』(扶桑社)など。シンプルで豊かなライフスタイルと、センスの光る着こなしが注目されている。