
writer 齋藤萌
「心地いいおしゃれの見つけ方」をテーマに、自分らしい着こなしやおしゃれのルールを持っている人たちをご紹介しています。
第9回目は、洋服ブランド「CHICU+CHICU5/31(ちくちくさんじゅういちぶんのご)」のデザイナー・山中とみこさんです。
40代で「自分に似合うものを作りたい」と、専業主婦からデザイナーになったほど洋服が好きな山中さん。格好良いのに肩肘張らないリラックスした雰囲気が、とても魅力的な装いです。
こうした山中さんならではのスタイルは、元々の好みに人生経験が積み重なり生み出されたもののよう。今回はライフスタイルや自身の変化を受け入れながら「自分らしさ」を作り上げている、山中さんのおしゃれの秘密にせまります。

出産を機に作りはじめた、自分に似合う服
▲自身のブランド「CHICU+CHICU5/31」の服に、「uzura(うずら)」の靴を合わせて
「私が若かった頃は雑誌全盛期。その影響から私も雑誌に載っている洋服を買いに行くなどし、ファッションが大好きになりました。
けれど出産後に体型が変わり、着るものに迷うようになったんです。そこで自分の服も子どもの服も、買うのではなく自分で作るようになりました。それがきっかけで49歳でCHICU+CHICU5/31を立ち上げ、今に至ります」
▲ブラウス・スカート:ともに「comme des garcons(コムデギャルソン)」。自分へのご褒美に今年の春に購入。靴は長年愛用の「trippen(トリッペン)」
「モノトーンが好きなのも、ゆったりとしたフォルムが好きなのも元々の好みではありますが、リネンやコットンなど日常を心地よくできる肌触りのいい生地を使い、子育てのことを考えて動きやすさも大切にするようになったのは、生活の中で培われたこだわりですね」
ヒールは履かない。フェミニンに寄りすぎないスタイルが好み

「若い頃からcomme des garconsの『女性らしさ』にとらわれていないデザインが好きで、デザイナーの川久保さんは私の憧れです。
今もこの趣味は変わっておらず、コーディネートはフェミニンに寄りすぎないようにバランスを心がけています。ヒールを履かないというのもこのこだわりが理由で、靴はフラットのものばかりです。
見た目の雰囲気が自分に合うかも大切ですが、靴ですから歩きやすさも重要。トリッペンの靴はデザインが好みな上に足を痛めないので、長年愛用しています。
そのほか、以前からお店で扱っていたオーダーメイドシューズのブランドであるuzuraの靴が最近のお気に入り。uzuraからコーディネートに合わせやすい白い靴が発表された時に、思わず購入しました」
グレイヘアになってから似合うようになった、ブラックの帽子

大の帽子好きという山中さんが今回たくさん持っている中から紹介してくれたのは、「mite(みて)」というブランドの帽子です。
一見シンプルなフォルムですが被ってみると少しコンパクトな作りが特徴的で、山中さんならではのスタイルを作る上で一役買っています。

「あえてSサイズを購入して、ぽんっと乗せるように被っています。頭にボリュームを持ってくるバランスが好きなんです。
いくつか色を持っていますが、最近はブラックが気に入っています。グレイヘアには淡い色の帽子よりも、ブラックの方が締まりが出て似合うなぁと感じているんです」
手元を明るく彩る、真っ赤なネイルと大きめのアクセサリーたち
▲左上:「sunui(すぬい)」の白いブローチ、その他:樹脂の指輪、伊達メガネ、ヴィンテージのボタンが付けられたピンなど
洋服から帽子までモノトーンが多い山中さんのファッションに彩りを加えているのが、キャンディのように色鮮やかな指輪や真っ赤なネイルです。
中にはスーパーで500円で買ったというビーズのブレスレットもあり、普段の買い物でもついアクセサリーに目がいく姿からは、山中さんのファッション好きな気持ちが溢れ出ている気がします。
「私はアレルギーのため金属をつけることができません。そのため樹脂やシルク、べっ甲などのアクセサリーを使っています。サイズはどれも大きめ。存在感のあるものを身につけて、コーディネートのアクセントにしているんです」

「仕事のときはネイルを欠かさないようにしています。手元に色があるとふとした瞬間目に入るので、気合いが入りますし、元気ももらえる気がするんです。使っているネイルはドラッグストアなどで買える手頃なものですが、色は明るい気持ちになれる鮮やかな赤と決めています」
▲「CHICU+CHICU5/31」のシルクのネックレスとべっ甲のブローチはじめて使った柄物。来年は新しい生地に挑戦したい

色も生地もフォルムのバランスも、自分好みが確立されている山中さんですが、「はじめて自分のブランドで柄物を使ったんです」と、新しく取り入れたおしゃれについて楽しそうに語ってくれました。
最後は、まだまだ挑戦を続ける山中さんの次の試みを紹介したいと思います。
「2023年に『山中とみこの大人のふだん着』という裁縫の本を出版しました。この本で使っている布はすべて、オリジナルの布や英国のリバティプリントなどの販売を行っている『CHECK&STRIPE』のもの。今回コラボレーションという形でご一緒したんです。
その時に『CHECK&STRIPE』で見つけたのが、今着ているブルーの水玉のような柄が描かれた布です」

「実はこれ、リバティプリントのもの。リバティと言えば愛らしい小花柄をイメージする方が多いと思うんです。私もその例に漏れず、ずっとメンズライクが好きな私とは好みが違うかもしれないと思っていました。けれどこの柄だったら私にも似合うと思えたんです。
そこで今まで無地の布だけしか使ってこなかったCHICU+CHICU5/31で、はじめて柄物を使うことに決めました。すると長年見ていてくださったお客さまや読者の方にも『柄を使うなんて珍しいね』とお声をいただき、すごく新鮮な気持ちになれたんです。
来年は70歳。せっかくの節目なので、何か新しいことをしたいなと思っています。明るいチェックの柄の布を使うなど、今までやったことのないおしゃれに挑戦したいです」
撮影・取材・文/齋藤萌
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- プロフィール
山中とみこ(やまなかとみこ)
「CHICU+CHICU5/31」デザイナー
専業主婦、古道具屋店主、小学校の特別支援学級の補助職員などを経て、2003年に大人の普段着のレーベル「CHICU+CHICU5/31(ちくちくさんじゅういちぶんのご)をスタート。所沢にてギャラリー&ショップ「山中倉庫。。」を不定期オープンしているほか、全国で展示会を開催している。著書に『時を重ねて、自由に暮らす』(エクスナレッジ)『山中とみこの大人のふだん着』(文化出版局)などがある。Instagram:@chicuchicu315